第13章 硬さが続かない時の練習 ― 緊張とあせりをほどく
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途中でやわらかくなってしまうと、「自分はだめなのかな」と不安になりますよね。でも、硬さは波のように満ちたり引いたりするもの。引いても、また戻ってくるんですよ。この章では、その波と仲よくなる練習をしていきましょう。
ときどき硬さが続かないのは、よくあること
英国の国の医療サービス(NHS)は、こう説明しています。ほとんどの男性は、ときどき勃起しなかったり、硬さが続かなかったりする。その多くは、ストレスや疲れ、お酒の飲みすぎによるもので、心配はいらない、と。場面によって勃起しにくいだけで、朝起きた時など、ほかの時には勃起することもあります。
つまり、1回や2回うまくいかなかったからといって、からだが壊れたわけではないんです。困るのは、その1回を気にしすぎて、次の不安につながっていくことなんですよ。
緊張と勃起の関係:不安の輪
第1章でお話ししたとおり、勃起を支えるのは、からだを休ませる「ゆるむ神経」(副交感神経)です。反対に、緊張したときに働くのは、からだを活動させる「高まる神経」(交感神経)でしたね。不安やあせりが強いと、ゆるむ神経が働きにくくなり、硬さが続きにくくなります。
帝京大学の泌尿器科は、心の面が中心の勃起の悩み(心因性ED)について、こう説明しています。「勃起しなければならない」という重圧を感じ、一度うまくいかないと、その経験が苦しくなる。そして、ますます勃起に不安を感じるようになる。性の行為の前の「うまくいくかな」という心配(予期不安)が、原因のひとつになる、と。
心配する → 緊張する → 硬さが引きやすくなる → 次もまた心配になる。この輪を、練習で少しずつゆるめていきます。
練習1:わざと引かせて、戻ることを確かめる
性の専門家がよく使う練習に、「ウェクス・アンド・ウェイン(満ち引き)」と呼ばれるものがあります。米国の性の治療の専門家たちは、自慰の中でこの練習をしておくと、硬さが引いた時にあわてずにすむ、と説明しています(Metz ら, 2017)。英国の国の医療機関で働く性の悩みの専門家は、こんな例を紹介しています。ひとりで刺激して硬くなったら、いったん刺激をやめて、硬さが引くのを待つ。これを3回くり返し、4回目で最後まで進む。ねらいは、「硬さが引いても、また戻ってくる」ことを、からだで覚えることです(Mathews, 2020)。
ひとりで試すときの目安は、次のとおりです。
- まずは第2章のとおり、急がなくていい時間と場所をつくる
- 硬くなったら、手を止める。長く吐く呼吸をしながら、引いていくのをそのまま眺める
- 半分くらいまで引いたら、またやさしく触れ始める。戻ってくるのを待つ
- これを2〜3回くり返してから、最後まで進む。途中で戻らなくても、その日はそれでよしとする
紹介した例は、ひとりの患者さんの記録です。この練習だけを取り出して効果を比べた研究ではありません。それでも、「引いた=失敗」ではないと体験できることは、不安の輪をゆるめる手がかりになります。止めて高め直すエッジングの練習(第3章)と似ていますが、こちらは射精ではなく、硬さの満ち引きに注目するところが違います。
練習2:感覚に集中する(センセート・フォーカスのひとり版)
「センセート・フォーカス(感覚に集中する練習)」は、性の治療の先がけであるマスターズとジョンソンが考えた方法です。もとはカップルで行うもので、はじめは性行為を休み、相手の体に触れる・触れられる感覚そのものに注意を向けます(Mathews, 2020)。性の治療の分野では、40年以上使われてきました。これまでの研究をまとめた報告では、おおむね効果のある方法とされています。ただし、効果を示した研究の多くは、ほかの方法と組み合わせたものでした(Linschoten ら, 2016)。
ここでは、その考え方をひとりの時間に当てはめてみます。ひとり版そのものの効果を確かめた研究は、ここでは確認できていません。なので、「考え方を借りた練習」として試してくださいね。
- 決まり:この日は「硬くすること」も「最後まで行くこと」も目標にしない
- はじめの10分は、腕、胸、おなか、太ももなど、性器以外に触れる。温かさ、肌ざわり、圧の強さを感じとる
- 「硬くなったかな」と確かめたくなったら、それに気づいて、手の感覚に注意を戻す
- 慣れてきたら、性器にも、同じように「感じるため」に触れる。硬さは、来ても来なくてもかまわない
今この瞬間の感覚に注意を向ける練習(マインドフルネス)の研究は、第3章で紹介しています。
続くときは、受診してほしいサイン
練習は、心の面の悩みには助けになることがあります。けれど、硬さが続かない状態がいつも続くなら、からだの病気が関わっていることもあります。NHSも、くり返し起こるときは受診するよう案内しています。高い血圧、コレステロール、糖尿病、気分の落ちこみや不安、ホルモンの問題などが原因になりうるからです。
日本性機能学会と日本泌尿器科学会のED診療ガイドラインも、勃起の悩みを、糖尿病などの生活習慣病や、心臓や血管の病気と深く関わる大切なサインとして扱っています。勃起の悩みが心臓や血管の病気の前ぶれになる、という見方も取り上げています。何科へ行けばいいかは第6章、運動・睡眠・たばこ・お酒との関係は第15章にまとめています。
次のようなときは、練習だけで様子を見ずに、泌尿器科に相談してください。朝の勃起も含めて、どんな場面でも硬くならない。少しずつ悪くなっている。勃起したときの痛みや、陰茎の曲がり・しこりがある(ペロニー病の目安は第9章)。新しい薬をのみ始めてから起きた。今のんでいる薬は、自分の判断でやめず、出した医師に相談しましょう(第6章)。
硬さは、あなたの価値を決めるものではないんですよ。引いたら、深呼吸をひとつ。「また戻ってくるかな」と、のんびり待つくらいでちょうどいいんです。
修行のお題 次の1回で、練習1の「満ち引き」を1回だけ試してみましょう。硬くなったら手を止めて、長く吐く呼吸を5回。そのあと、また戻ってきたかどうかを、メモに「戻った・少し戻った・戻らなかった」の3択で残してみてくださいね。
参考にした資料
- Erectile dysfunction (impotence)(NHS)
- 心因性EDの治療とカウンセリング(帝京大学泌尿器科アンドロロジー診療)
- Mathews E(2020)Male sexual disorders: options for psychotherapeutic treatment. Trends in Urology & Men's Health
- Metz ME, Epstein NB, McCarthy B(2017)Treatment for Male Sexual Dysfunction. Cognitive-Behavioral Therapy for Sexual Dysfunction. Routledge
- Linschoten M, Weiner L, Avery-Clark C(2016)Sensate focus: a critical literature review. Sexual and Relationship Therapy
- ED診療ガイドライン[第3版](日本性機能学会・日本泌尿器科学会, 2018)