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第15章 からだを守る暮らし方 ― 運動・睡眠・たばこ・お酒と勃起の力

⏱ 読む時間の目安:約7分

極意の段の最後は、道場の外のお話です。勃起の力は、ひとりの時間の工夫だけで決まるものではありません。毎日の歩き方、眠り方、たばこやお酒との付き合い方が、じわじわと効いてくるんですよ。今日からできる手順を、一緒に組み立てていきましょうね。

勃起の力は、血管の元気さを映す

第1章でお話ししたとおり、勃起は、陰茎の血管が広がって血液が流れこむことで起きます。ですから、全身の血管が傷みやすい暮らしは、勃起にも影響しやすいんです。勃起の悩みが心臓や血管の病気の手がかりになりうることは、40代からのオナニー道(男性編)でくわしく紹介しています。

日本性機能学会と日本泌尿器科学会がまとめた「ED診療ガイドライン(第3版)」は、勃起の悩み(ED)につながりやすい要因として、加齢、糖尿病、肥満と運動不足、心臓や血管の病気と高血圧、喫煙、睡眠中に呼吸が止まる病気など、12の要因を挙げています。そのうえで、自分で変えられるものとして「肥満・運動不足」と「喫煙」をはっきり示し、正す努力が必要だとしています。

ただし、ガイドラインは正直に限界も書いています。日本人のデータでは、肥満ははっきりした要因とは言えず、運動で変わるかを日本人で確かめた研究もまだない、という点です。それでも、肥満や運動不足を解消することは、勃起の悩みの改善や予防につながる可能性が高い、とまとめています。

運動:まずは「息が少しはずむ」くらいから

息が少しはずむくらいの運動を、有酸素運動といいます。早歩き、ジョギング、自転車などです。この有酸素運動と勃起の関係を調べた、くらべる試験(無作為化比較試験)が11件あります。合わせて1,147人のデータをまとめた研究では、運動したグループは、運動しなかったグループより、勃起の状態を表す点数(6〜30点)が平均2.8点高くなっていました。もともとの悩みが重い人ほど差が大きく、軽い人で2.3点、中くらいで3.3点、重い人で4.9点でした(Khera ら, 2023)。

ただし、研究ごとに運動の種類や回数、期間はばらばらでした。どのくらいの運動がいちばんよいのかは、まだ分かっていません。運動を始めた人が、食事など別の習慣も一緒に変えていた可能性もあります。また、持病のある人には運動が向かない場合もある、と研究者は注意しています。ですから「この量なら効く」とは言えません。まずは続けられる量から始めるのが、いちばんの近道です。

運動の中でも、長い時間の自転車には少し注意が必要です。英国のNHSは、週に3時間以上自転車に乗る人は、勃起の悩みがあるあいだ、しばらく乗るのを控えるようすすめています。

体重:生活を変えた2年間の試験

イタリアで、肥満があり、勃起の悩みもある35〜55歳の男性110人を、2つのグループにくじで分けた試験があります(Esposito ら, 2004)。糖尿病・高血圧・脂質の異常がある人は、対象から外されています。

2年後、指導を受けたグループでは、体格を表す数値(BMI)が平均36.9から31.2に下がりました。運動の時間も、週48分から195分に増えていました。勃起の状態を表す点数(ふつうの範囲が22点以上)は、平均13.9点から17点に上がりました。もう一方のグループは13.5点から13.6点で、ほとんど変わりませんでした。点数がふつうの範囲まで戻った人は、指導を受けたグループで55人中17人、もう一方では55人中3人でした。

この試験の対象は、肥満がある男性に限られています。結果も「約3人に1人によい変化があった」というもので、全員ではありません。それでも、薬を使わない生活の見直しで、これだけの差が出たことは、心強い知らせですね。

ふつうの範囲に戻った人 生活を大きく変えた組 約31%(55人中17人) 一般的な情報だけの組 約5%(55人中3人) 棒の長さは0〜100%の目盛り
肥満と勃起の悩みがある35〜55歳の男性110人の2年間の試験。勃起の点数が22点以上になった人の割合です(Esposito ら, 2004 をもとに作図)。

たばこ:やめると、取り戻せる人もいる

ED診療ガイドラインでは、喫煙と勃起の悩みの関係を調べた研究がまとめられています。約2万8千人のデータを合わせた分析では、たばこを吸う人は吸わない人より、勃起の悩みを持つなりやすさが約1.5倍と計算されました。吸う本数が多いほど、吸う年数が長いほど、悩みが増える傾向も多くの研究で見られています。たばこは、血管の内側を傷つけ、陰茎への血の流れを悪くすると考えられています。一方で、日本の人間ドックの研究では、はっきりした差は出ていませんでした。

やめたあとの変化を追った研究もあります。勃起の悩みがあり、禁煙の治療を受けた男性のうち、たばこをやめた118人と、吸い続けた163人を1年後に比べました。やめた人では25%以上で勃起の状態がよくなり、吸い続けた人でよくなった人はいませんでした。ただし、年齢が高い人や、もともとの悩みが重い人ほど、よくなりにくい傾向がありました(Pourmand ら, 2004)。くじで分けた試験ではなく、やめるかどうかは本人が選んでいます。それでも、「やめるなら早いほうがよい」と考える材料にはなりますね。

お酒と眠り:「ときどき」の不調の正体かも

NHSは、勃起がときどきうまくいかないのは、たいていストレス、疲れ、お酒の飲みすぎによるもので、心配しなくてよいとしています。そのうえで、お酒は週14単位をこえないようすすめています。

日本では、厚生労働省が「生活習慣病のリスクを高める飲酒量」を、男性は1日あたり純アルコール40g以上としています。ビール500mL(5%)1本の純アルコールは20gです。つまり、ロング缶2本で、もうその量に届いてしまうんですね。同じ資料は、飲む量が少ないほどリスクが少ないという報告があること、週に1〜2日はお酒を飲まない日をつくることも勧めています。また、寝酒は、はじめは寝つきがよく感じても、続けるうちに眠りが浅くなり、目が覚めやすくなるとしています。

眠りも大切です。寝不足が男性ホルモンを下げることは第8章でお話ししました。さらに、ED診療ガイドラインは、眠っている間に呼吸が止まる病気(睡眠時無呼吸症候群)がある人は、勃起の悩みを持つ割合が高いことを紹介しています。この病気の治療で、勃起の点数がよくなった試験もあります。大きないびきや、昼間の強い眠気がある人は、一度相談してみてくださいね。

今日から始める、5つの手順

この手順は、研究の結果をふまえた、始めやすさのための提案です。量や回数に、決まった正解はまだありません。続けられることを1つだけ選んで、まず2週間試してみてください。緊張や不安で硬さが続かないときの練習は、第13章で扱います。

心臓の病気や高血圧、糖尿病などで治療中の人は、運動を始める前に主治医に相談してください。運動中に胸の痛みや強い息切れが出たら、すぐに中止しましょう。勃起の悩みが続くとき、朝の勃起がほとんどなくなったときは、泌尿器科で相談しましょう。勃起の悩みの薬は、医師の診察と処方が必要です。インターネットで個人輸入した薬は、中身や品質が確かでないものもあるので使わないでください。相談先は第6章にまとめています。

勃起の力を守る修行は、道場の外、毎日の暮らしの中にあるんです。一度に全部変えなくていいんですよ。一歩歩くこと、一晩よく眠ること。その小さな積み重ねが、あなたのからだを、何年先まで支えてくれますからね。

修行のお題 この1週間で、20分の早歩きを3回してみましょう。歩いた日に、カレンダーへ丸をひとつ付けてくださいね。3つ丸が並んだら、それがあなたの、暮らしの修行の第一歩です。

参考にした資料

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