第8章 性欲の波を知ろう ― 月経周期・ストレス・「あとから湧く欲求」
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「最近、ぜんぜんその気にならない」「わたしだけ、少ないのかな」。そんなふうに思ったことはないかな。したい気持ち(性欲)は、毎日同じではないんだ。波があって、その波の形も人それぞれ。入門の八歩目は、自分の波を知るところから始めよう。
欲求の強さは、人によってかなり違う
イギリスで、かたよりなく選ばれた16〜74歳の15,162人に話を聞いた全国調査がある。この1年に性行為があった女性のうち、「性への関心がない」状態が3か月以上続いたと答えた人は34.2%いた。女性の悩みの中で、いちばん多いものだった。ところが、自分の性生活に悩んだり、つらいと感じたりしている人は、女性の10.9%にとどまっていた(Mitchell ら, 2013)。
カナダの医師バッソンも、こう書いている。いくつもの調査で、18〜70歳の女性の30〜35%が、この1か月〜1年のあいだに性欲がなかったと答えている、とね(Basson, 2005)。
つまり、欲求が少ない時期があるのは、ちっとも珍しくない。そして、少ないことそのものより、「本人がつらいかどうか」が大事なんだ。
月経周期と、欲求の波
アメリカの研究チームは、ホルモン剤を使っていない若い女性に協力してもらった。1〜2回の月経周期のあいだ、毎日だ液を集めて、その日の「したい気持ち」を記録してもらったんだ。すると欲求は、排卵のころにいちばん高くなった。排卵のあと、次の生理の前の時期(黄体期)には、はっきり下がっていた。週末の金曜・土曜に高くなる傾向も見られたよ(Roney & Simmons, 2013)。
別の研究では、生理中は欲求が下がっていた(Kalmbach ら, 2015)。周期のどこにいるかで、気持ちが変わってもおかしくないんだね。
これらは、大学に通う若い女性の小さな集団で調べた研究なんだ。著者たちも、年上の人には当てはまらないかもしれない、と書いている。示されたのは集団の平均の傾向で、「この日に必ず高まる」という意味ではないよ。波の形は、人によって違うと考えてね。
「あとから湧く欲求」というもの
昔からの教科書は、性の反応をこう説明してきた。まず「したい」と思い、それから体が高まる、という順番だ。けれどバッソンは、多くの女性の実際の感じ方は違う、と示した。始める時は、特にしたいわけではない「中立」の状態。それでも、近づきたい、心地よくなりたいといった理由で、ふれることを選ぶ。ふれているうちに心と体が高まってくる。すると、そこで初めて「したい」という気持ちが湧いてくる。この流れを、反応して生まれる欲求(反応性の欲求)と呼ぶんだ(Basson, 2005)。
バッソンは、先に湧く欲求の強さは人によって大きく違う、とも書いている。月経周期とかかわることもあるし、年齢とともに減ることもある。新しい恋のはじまりには増えやすい。だから、先に湧く欲求がないことだけでは、病気とは考えない。いまの専門家の定義も、その考え方に変わってきているんだ。
この考え方は、おもにパートナーとの関係で語られてきた。けれど、ひとりの時間にもヒントになる。「その気になってから始める」だけでなく、「ゆっくりふれてみて、湧いてくるかを確かめる」という順番もあっていいんだ。もちろん、ふれてみて気が乗らなければ、そこでやめていいよ。
「その気にならないと始めちゃいけない」なんて決まりはないんだ。気持ちは、あとからついてくることもある。ついてこない日は、休めばいい。どちらも正解だよ。
ストレス・疲れ・睡眠・薬の影響
イギリスの国民保健サービス(NHS)は、性欲が下がるおもな原因として次のものを挙げている。
- ストレス、不安、気分の落ち込み(うつ)
- お酒の飲みすぎ
- 低用量ピルなど、ホルモンを使う避妊法
- 一部の薬(血圧の薬や、うつの治療に使う薬など)
- 妊娠・出産と、赤ちゃんのお世話の疲れ
- 年齢によるホルモンの減少、特に閉経のころ
- 腟の乾燥などの体の悩みや、パートナーとの関係の悩み
日本女性心身医学会も、育児の疲れや激務などのストレスで、性への関心が減ることがあると説明している。うつの治療に使われる薬の一部(SSRI)が、性への興味を下げることも知られているそうだ。
睡眠も関係するかもしれない。アメリカの女性171人が、14日間、毎朝記録をつけた研究がある。よく眠れた夜の次の日ほど、性欲が高かった。睡眠が1時間長いと、パートナーとの性的な活動をする見込みが14%高くなっていた(Kalmbach ら, 2015)。ただしこれは大学で集めた人たちの、お試しの段階の研究(予備的な研究)なんだ。
ホルモンを使う避妊法については、研究によって結果がそろっていない。NHSは原因のひとつに挙げている。一方で、先ほどの睡眠の研究では、ピルを使っている人のほうが欲求の点数が高かった。合う・合わないは人によって違う、と受け止めておこう。薬や避妊法が気になっても、自分の判断でやめないこと。処方した医師に相談しよう。
欲求がないことも、異常ではない
波が低い時期があっても、それだけで「おかしい」わけではない。先ほどの全国調査でも、関心がない状態は多くの人にあった。けれど、そのことでつらいと感じていた人は、ずっと少なかったよね。性の時間をもたない時期があっても、困っていないなら、それでいいんだ。ひとりの時間は、義務ではないからね。
つらい時の相談先
次のような時は、ひとりで抱えずに相談してみよう。
- 急に欲求がなくなって、自分やパートナーが悩んでいる
- 薬や避妊法を変えたころから、気になり始めた
- 気分の落ち込みや眠れない日が続いている
NHSも、薬や避妊法が影響していると思う時や、心配な時は医師に相談するよう案内している。日本では、性機能外来を設けている婦人科や泌尿器科もある(日本女性心身医学会)。どこに行けばいいかは第6章に、届かない・集中できない時の向き合い方は第4章にまとめてあるよ。
波は、なくすものではなく、知って付き合うものなんだ。低い日の自分も、高い日の自分も、どちらも同じあなただよ。
詳しくは、コラム「性欲には波がある ― 週・月・季節・年齢で変わるもの」も、あわせて読んでみましょう。
修行のお題 これから1か月、寝る前に1行だけ「波メモ」をつけよう。その日の「したい気持ち」を0〜3の数字で書き、生理の日と、前の夜の睡眠時間も添える。月の終わりに見返して、自分の波の形を探してみてね。
参考にした資料
- Basson R (2005). Women's sexual dysfunction: revised and expanded definitions. CMAJ
- Mitchell KR, Mercer CH, Ploubidis GB, ほか (2013). Sexual function in Britain: findings from the third National Survey of Sexual Attitudes and Lifestyles (Natsal-3). The Lancet
- Roney JR, Simmons ZL (2013). Hormonal predictors of sexual motivation in natural menstrual cycles. Hormones and Behavior
- Kalmbach DA, Arnedt JT, Pillai V, Ciesla JA (2015). The impact of sleep on female sexual response and behavior: a pilot study. Journal of Sexual Medicine
- Low sex drive (loss of libido)(NHS)
- 女性の性機能障害(日本女性心身医学会)