第9章 デリケートゾーンの洗い方とおりもの
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「においが気になって、つい念入りに洗ってしまう」。そんな人は少なくないんだ。けれど、体にはもともと、自分をきれいに保つ力がそなわっている。洗いすぎは、その力のじゃまをしてしまうこともある。入門の九歩目は、毎日のお手入れと、おりもののサインの読み方だよ。
腟には、自分できれいにする力がある
腟の中には、体を守る菌がすんでいる。乳酸菌のなかまだ。アメリカ産科婦人科学会(ACOG)の解説によると、女性ホルモン(エストロゲン)がこの菌の育ちを助けている。この菌がつくる物質のおかげで、腟の中は少しすっぱい状態(弱酸性)に保たれる。そのすっぱさが、病気を起こす菌から腟を守っているんだ。健康な腟には、カビのなかま(カンジダ)がいることもある。それでも、すっぱさのおかげで増えすぎずにすんでいる。
おりものにも役目がある。ほとんどが水分で、体の役に立つ菌をふくんでいる。腟の内側からはがれた古い細胞を外へ運び出して、自然にきれいにしてくれているんだ(ACOG)。この働きを、まとめて「自浄作用」と呼ぶよ。
洗うのは外側だけ、やさしく
ACOGとイギリスの国民保健サービス(NHS)がすすめる洗い方を、順番にまとめてみよう。
- 洗うのは、外から見える部分(外陰部)だけ。腟の中は洗わない
- 使うなら、香りのないシンプルな石けんを。ぬるま湯か、少し冷たいくらいの水で流す
- 洗ったら、こすらずにタオルでそっと押さえて水気をとる
- ひりひりする時は、内側のひだのあたりには石けんを使わない。水だけで十分だと説明されている
- 香りつきの石けんやジェル、デオドラント、香りつきのシートやスプレーは使わない
- トイレのあとは、前から後ろへふく
合言葉は「やさしく、こすらず」なんだ。陰毛の手入れについては、陰毛のコラムにまとめてあるよ。
腟の中を洗わない理由
腟の中に水や液を入れて洗うことを、腟洗浄(ちつせんじょう)と呼ぶ。アメリカ保健福祉省の女性の健康局(OWH)は、医師の多くが腟洗浄をすすめていない、と説明している。腟の中の菌のバランスと、すっぱさをくずしてしまうからだ。その結果、よくない菌が増えやすくなる。週に1回洗う人は、洗わない人に比べて、腟の菌のバランスがくずれる病気(細菌性腟症)に5倍なりやすかったそうだ。
日本の産婦人科の専門誌でも、医師が同じことを書いている。自分で行う腟洗浄は、洗う液を使っても使わなくても、守り役の乳酸菌を減らしてしまう。それが婦人科の感染症のきっかけになることがあるので、すすめられない、とね(金山, 2022)。日本で行われている腟洗浄の多くは、医師が薬と組み合わせて行うもので、洗浄だけの効果ははっきりしていないそうだ。
OWHは、腟洗浄が病気の原因なのか、もともと病気になりやすい人が洗っているのかは、まだ研究中だとも書いている。それでも、洗うことで健康によいと示した研究は見つかっていない。においが気になって洗いたくなった時こそ、洗わずに受診を考えよう。OWHは、受診の前にも洗わないように、と伝えているよ。調べにくくなるからなんだ。
おりものは、周期で変わる
ACOGによると、いつものおりものは透明から白っぽい色で、目立つにおいはない。量や性質は、月経周期のあいだに変わっていく。少しのにおいがあるのは、ふつうのことだと書かれているよ。
NHSの解説では、次のようなおりものは、ふだんは心配いらないとされている。
- 強いにおいや、いやなにおいがない
- 透明か白っぽい
- ねばねばしている、または、ぬるっとして水っぽい
生理と生理のあいだの排卵のころは、より透明で水っぽくなり、量が増えて気づきやすい。妊娠中や、性の活動がある時期、避妊の方法によっても増えることがある(NHS)。
受診したい色・におい・かゆみ
NHSは、においや色、質感が変わった時は、感染症のサインかもしれない、としている。たとえば次のような時だ。
- 魚のようなにおいがする
- 白くて厚く、カッテージチーズのようにぽろぽろしている
- 緑色や黄色、泡っぽい
- おなかの下のほうの痛みや、出血をともなう
- 水ぶくれや、ただれがある
ACOGによると、よくある腟のトラブルは2つある。ひとつはカンジダが増えすぎること(腟カンジダ症)で、外陰部のかゆみや焼けるような感じがおもな症状だ。抗生物質を飲んだあとや、妊娠中、潤滑剤や殺精子剤の使用などがきっかけになることがある。もうひとつは、腟にもともといる菌が増えすぎること(細菌性腟症)で、魚のようなにおいの強いおりものが増えるのがおもな症状だ。こちらは性行為の経験があるかどうかにかかわらず、誰にでも起こりうるとされている。どちらも、くずれた菌のバランスがかかわっているんだ。
ほかにも、かゆみやひりひり感がある、生理以外の時や性行為のあとに出血する、おしっこの時に痛む、といった時は相談のサインだ。自分で病名を決めつけずに、婦人科で診てもらおう。受診の目安や何科に行くかは第6章に、カンジダなどのトラブルの予防は第15章にまとめてあるよ。
おりものは、体が毎日書いてくれる日記のようなものなんだ。いつもの字を知っていれば、乱れた日にすぐ気づけるよ。
下着と生理用品の工夫
ACOGは、空気が通るようにする工夫として、次のことを挙げている。
- ぴったりしすぎないズボンや下着を選ぶ
- 股の部分が綿の下着や、タイツを選ぶ
- トイレットペーパーは香りや色のついていないものを使う
- 生理用ナプキンやタンポンは、消臭・香りつきでないものを選ぶ
タンポンや月経カップを使う人は、とてもまれだけれど命にかかわる病気(トキシックショック症候群)も知っておこう。NHSは予防として、手を洗い、説明書を守ること、必要以上・指定以上に長く入れたままにしないことを挙げている。急な高い熱、紙やすりのような発疹、筋肉の痛み、めまいなどが出たら、すぐに取り出して救急に相談してね。
お手入れの極意は「足すより、引く」なんだ。洗いすぎず、香りを足さず、空気を通す。体の守り役たちが働きやすい場所をつくってあげよう。
修行のお題 この1週間、お風呂でのお手入れを「外側だけ・ぬるま湯か香りのない石けん・最後はタオルで押さえる」の3つにそろえてみよう。あわせて、家にある香りつきのシートやスプレーを1つ見直してみてね。