第8章 性欲のしくみ ― 気分の波・ホルモン・睡眠・ストレス
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「最近、なんだかその気にならない」「人より強すぎる気がする」。性欲のことは、なかなか人に聞けませんよね。この章では、性欲を動かしているものを、ひとつずつほどいていきましょう。しくみが分かると、自分を責める気持ちが、すっと軽くなるはずですよ。
性欲の強さには、もともと大きな個人差がある
まず知っておいてほしいのは、性欲の強さに「正しい量」はない、ということです。毎日のように高まる人もいれば、ほとんど意識しない人もいます。
アメリカで40〜70歳の男性1,632人を追いかけた調査があります。調査の始めに、性欲が低いと答えた人は約19%でした(Travison ら, 2006)。5人に1人ほどが「低い」側にいたわけですね。また、英国の1万8千人をこえる全国調査では、約1%の人が「男性にも女性にも性的に惹かれない」と答えています(Bogaert, 2004)。性的に惹かれることがほとんどない人を、アセクシュアルと呼ぶことがあります。本人が困っていないのであれば、治さなければならないものではありません。
大切なのは、量そのものより「前と比べて急に変わったか」「自分が困っているか」です。そこを見ていきましょうね。
男性ホルモンの役割と、その限界
性欲と聞くと、男性ホルモン(テストステロン)を思い浮かべる方が多いでしょう。たしかにテストステロンは、男性の性の働きに欠かせないホルモンです。1日に出る量の多くは、眠っている間に出ることも分かっています(Leproult & Van Cauter, 2011)。
ただし、「性欲が低い=ホルモンが足りない」とは限りません。先ほどのアメリカの調査では、集団で見ると性欲とテストステロンには関係がありました。けれど、その差は小さなものでした。性欲が低いと答えた人のうち、テストステロンが低め(300ng/dL未満)だったのは約23%です。調査に参加した人全体では14.4%でした(Travison ら, 2006)。つまり、性欲が低いと答えた人の多くは、ホルモンの値はふつうの範囲だったんです。研究者も「性欲が低いという訴えだけで、ホルモン不足と考えるべきではない」とまとめています。
性欲は、ホルモンだけでなく、疲れ・気分・人との関係・環境など、たくさんのつまみで決まっているんですよ。
睡眠:削ると、ホルモンも元気も下がる
眠りとホルモンの関係を確かめた研究があります。平均24歳の健康な男性10人に、まず10時間の寝床の時間を3晩とってもらいました。そのあと、寝床の時間を1晩5時間に減らして、8晩過ごしてもらいます。すると、昼間(朝8時〜夜10時)のテストステロンは、10時間のときより10〜15%低くなっていました。研究者は、年を重ねることでの低下(1年に1〜2%)と比べると、大きな変化だと述べています。元気さの自己評価も、日ごとに下がっていきました(Leproult & Van Cauter, 2011)。
ただし、10人だけの小さな研究です。測ったのはホルモンと元気さで、性欲そのものは測っていません。それでも「寝不足の週に、その気にならない」のは、気のせいではないのかもしれませんね。
ストレス・お酒・薬・病気も、性欲を下げることがある
英国の国の医療サービス(NHS)は、性欲が下がるおもな原因として、次のものを挙げています。
- ストレス、不安、気分の落ちこみ(うつ)
- お酒の飲みすぎ
- 一部の薬(血圧の薬、気分の落ちこみを治す薬=抗うつ薬 など)
- 年齢によるホルモンの低下
- 勃起の悩みなど、性の悩みそのもの
- パートナーとの関係の悩み
- 心臓病、糖尿病、甲状腺の働きの低下、がんなどの長く続く病気
性欲が下がると、つい「自分の気持ちが弱いせいだ」と思いがちです。でも、からだや環境の側に理由があることも多いんですよ。薬が関係していそうなときも、自分の判断でやめるのはやめてくださいね。薬を出した医師に相談するのが、いちばん安全な近道です。
波と付き合うための、今日からの3つ
- 眠りを先に整える:性欲を上げようとがんばる前に、まず寝る時間を確保する。いちばん手軽で、ほかの体調にもよい一歩です
- 低い時期を責めない:忙しい週や落ちこんでいる時期は、休む時期と考える。高まる時期があるのも自然なことです
- 記録して、自分の波を知る:眠った時間と、その日の性欲を書いておくと、何に左右されやすいかが見えてきます。受診するときの材料にもなります
こんなときは相談を
- 性欲の低下が続いて、自分が気になっている、困っている
- 新しい薬を飲み始めてから下がったと感じる
- 気分の落ちこみや、眠れない状態が続いている
- だるさ、ほてり、朝の勃起が減るなどが重なっている
相談先は、からだの面なら泌尿器科、気分の落ちこみが強いときは心療内科・精神科がめやすです。年齢とともに男性ホルモンが減ることで起きる不調(男性更年期障害、LOH症候群)については、40代からのオナニー道(男性編)でくわしくお話ししています。どこへ行けばよいか迷ったら、第6章も見てくださいね。
ホルモンを補う薬やサプリメントを、自分の判断で使うのはやめましょう。男性ホルモンを補う治療は、医師の診察と血液の検査が必要です。インターネットで個人輸入した薬は、中身や品質が確かでないこともあります。気分の落ちこみがつらいときは、ひとりで抱えこまず、早めに医療機関に相談してください。
性欲は、からだと心のお天気のようなもの。晴れの日もあれば、くもりの日もあるんです。くもりの日に「自分はだめだ」と思わなくていいんですよ。まずはよく眠って、あなたのからだを休ませてあげてくださいね。
修行のお題 この1週間、寝る前に「昨夜眠った時間」と「今日の性欲(0〜10)」を、メモに1行ずつ書いてみましょう。7日分並べたら、眠りが短かった日と性欲の数字を見比べてみてくださいね。
参考にした資料
- Low sex drive (loss of libido)(NHS)
- Leproult R, Van Cauter E(2011)Effect of 1 week of sleep restriction on testosterone levels in young healthy men. JAMA
- Travison TG ら(2006)The relationship between libido and testosterone levels in aging men. Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
- Bogaert AF(2004)Asexuality: prevalence and associated factors in a national probability sample. Journal of Sex Research