第12章 届き方の幅を広げる ― 一つの方法でしか届かない時
⏱ 読む時間の目安:約6分
「強い振動の道具でないと届かない」「いつもの姿勢でないとだめ」。そんな悩みを打ち明けてくれる人は少なくないんだ。届く方法があるのは、それだけで立派なこと。この章では、その方法を手放すのではなく、届き方の選択肢を少しずつ増やしていく練習をしよう。
「この方法でしか届かない」は、よくあること
クリーブランド・クリニックの解説では、オーガズムの困りごとを4つの型に分けている。その1つが「特定の場面でだけ届く」型で、例として「自慰のときだけ届く」が挙げられている。つまり、届き方が限られているのは、医療の場でも知られた、よくある形なんだ。
第3章で紹介したように、心地よい触れ方の好みは、場所も強さも動きも人それぞれだ(第3章)。いつもの方法は、あなたの体が見つけた大事な道なんだよ。
道具を使うと感じにくくなる?
よく聞く心配だね。研究で分かっていることを見てみよう。
アメリカで、全国の縮図になるように選ばれた18〜60歳の女性2,056人の調査がある。バイブを使ったことがある人は52.5%だった。最近使っている人は、性欲、興奮、潤い、オーガズム、痛みの少なさなど、性のはたらきの多くの点数が高い傾向にあった。71.5%は、道具に関係した性器の不調を一度も経験していなかった。研究者は、道具を使うことはよくあることで、困った症状はまれだとまとめている(Herbenick ら, 2009)。
道具の研究をまとめた総説でも、振動による刺激は、届きにくさの治療の手助けとして根拠があるとされている。ただし、はっきりした結論を出せるほどの研究はまだ少ない、とも書かれている(Rullo ら, 2018)。
ここで正直に言っておくね。上の調査は、ある時点の様子を一度に聞いたもの(横断研究)なんだ。もともと性の調子がよい人ほど道具を使っている、という可能性も残る。また、クリーブランド・クリニックの一般向け解説には、あまりに頻繁だったり、強すぎたりする自慰を続けると、感覚が鈍ることがある、とも書かれている。どのくらいでそうなるのかまでは書かれていない。「道具が感じにくさを生む」という強い根拠は見当たらないけれど、強さに頼りきらない工夫はしておく価値がある、というのが今の到達点なんだ。
専門家の支援で使われてきた「誘導マスターベーション」
第4章で少し触れた「誘導マスターベーション」は、体の知識を学び、段階を追ってひとりで反応を確かめていく練習だ。女性のオーガズムの困りごとに対する心理的な治療を見直した総説では、いちばん一貫して支えられているのは、この誘導マスターベーションと、触れ合いに集中する練習(センセート・フォーカス)、心理療法だとされている(Marchand, 2021)。同じ総説では、ずっと届いたことがない人のほうが、特定の場面でだけ届く人より、成功の割合が高かったとも書かれている。
古い研究だけれど、届いたことのない女性60人をくじ引きのように3つのグループに分け、2つのグループには6週間の練習を自宅で自分で進めてもらい、残りは順番待ちにした研究もある。練習をした人の60%が、期間の終わりまでに届くようになった(McMullen & Rosen, 1979)。振動する道具も、この練習の中でよく使われてきた道具の1つなんだ(Rullo ら, 2018)。
クリーブランド・クリニックも、届きにくさへの対応として、自分で触れる方法を学ぶことや、新しいやり方や道具を取り入れることを挙げているよ。
ただし、これらの研究の多くは、一度も届いたことがない人を対象にしたものだ。しかも古い研究が中心なんだ。「強い刺激なら届く」という人に同じ練習がどのくらい役立つかは、確かめられていない。考え方を借りる、くらいの気持ちで使ってね。
いつもの道を閉ざす必要はない。となりにもう1本、小道を通すだけでいいんだ。道が増えるほど、旅はゆたかになるよ。
一度に1つだけ変える:強い刺激から少しずつ
ここからは、誘導マスターベーションの「段階を追う」考え方と、このサイトの「一度に1つだけ変える」方法を組み合わせた手順だ。研究でこの順番そのものが確かめられたわけではないから、目安として使ってね。
- 段1:いつもの方法で高まる。まずは安心して届けることを大事にする。何も変えない回があっていい
- 段2:強さを1段だけ下げる。道具の振動を1段階弱める。届くまでの時間がのびても、それは失敗ではない
- 段3:途中で1分だけ持ちかえる。高まってきたところで、道具を離して指の腹で1分ほど触れる。そのあと、いつもの道具に戻って最後まで進む
- 段4:手で始めて、道具は後半から。手で過ごす時間を少しずつのばす。最後に道具の助けを借りるのは、まったくかまわない
- 段5:姿勢や場所を1つ変える。いつもうつぶせなら仰向けに、脚を閉じていたら少し開く、など1つだけ。こすりつける姿勢についてはコラムも見てね
毎回、「強さ」「持ちかえた時間」「届くまでのおよその時間」を1行メモしておくと、少しずつの変化に気づきやすいよ。たとえば「振動3→2、手で1分、届くまで約10分」のようにね。1つの段は、2〜3回続けて慣れてから次へ進もう。合わなかったり、まったく高まらなかったりしたら、1つ前の段に戻っていい。触れ方の具体的な形は第7章に、道具の種類は第5章にまとめてあるよ。
道具を使うことを責めなくていい
この練習の目的は、道具をやめることではないよ。疲れている日、時間がない日、すぐに心地よさがほしい日に、頼れる道具があるのは心強いことなんだ。届き方の選択肢が増えれば、その日の体調や気分に合わせて選べるようになる。パートナーとの時間に道具を持ちこむことも、自然な工夫のひとつだ(第14章)。
ただ、触れたときのしびれや、感じ方の変化が何日も続く、痛みやひりひりが残る、というときは、強さを下げて休もう。それでも変わらなければ、第6章を読んで婦人科などに相談してほしい。
強い刺激で届くあなたも、やさしい刺激を探しているあなたも、どちらも正しい。急がず、1段ずつ、景色を楽しみながら登っていこう。
修行のお題 次の1回は「段2」だけをやってみよう。いつもの道具の強さを1段階だけ下げて、届くまで、またはやめるまでの様子を観察する。終わったら「下げた強さでの感じ」を1行メモしておこう。
参考にした資料
- Herbenick D, Reece M, Sanders S, Dodge B, Ghassemi A, Fortenberry JD (2009). Prevalence and characteristics of vibrator use by women in the United States: results from a nationally representative study. Journal of Sexual Medicine
- Rullo JE, Lorenz T, Ziegelmann MJ, Meihofer L, Herbenick D, Faubion SS (2018). Genital vibration for sexual function and enhancement: a review of evidence. Sexual and Relationship Therapy
- Marchand E (2021). Psychological and behavioral treatment of female orgasmic disorder. Sexual Medicine Reviews
- McMullen S, Rosen RC (1979). Self-administered masturbation training in the treatment of primary orgasmic dysfunction. Journal of Consulting and Clinical Psychology
- Anorgasmia: Causes, Symptoms, Diagnosis & Treatment(Cleveland Clinic)
- Masturbation: Facts & Benefits(Cleveland Clinic)