第13章 入り口のこわばりをほどく練習 ― 指1本から、少しずつ
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「入れようとすると、体がかたまってしまう」「タンポンも指も入りにくい」。そんな悩みは、なかなか人に話せないものだね。でも、それはあなたの気持ちが弱いからでも、体がおかしいからでもないんだ。この章では、入り口のこわばりを「がんばって押し通す」のではなく、「ゆるめて、少しずつ慣らす」練習を話そう。
体が勝手にかたまるのは、珍しいことではない
イギリスの公的医療サービス(NHS)は、こう説明している。何かを入れようとしたときに、腟が急にぎゅっと締まってしまう状態がある。これは「腟けいれん(ワギニスムス)」と呼ばれる。タンポンを入れるとき、指や道具を入れるとき、子宮がんの検診のときなどに起こり、焼けるような、しみるような痛みをともなうことがある。自分では止められない、体の自動的な反応なんだ(NHS)。
婦人科医の大川玲子さんは、これは「けいれん」というより「無意識の収縮」と呼ぶほうが合っている、と書いている(ヨミドクター)。以前は問題なかったのに、何年もたってから起こる人もいる(クリーブランド・クリニック)。そしてNHSによれば、入りにくさがあっても、高まる力や、ほかの触れ合いを楽しむ力まで失われるとは限らないんだ。
こわさと縮みのくり返し
原因ははっきり分かっていない。クリーブランド・クリニックは、いちばん有力な考えとしてこう説明している。痛みへのこわさがあると、挿入しようとしたときに骨盤の底の筋肉(骨盤底筋)が自動的に縮む。縮むと痛み、痛むとまたこわくなる。この「こわさ→縮み→痛み」の輪がくり返されやすい、というんだ。
痛い経験、いやな診察、性についての否定的な思い、望まない性的な経験などが関わることもあるとされる。一方で、はっきりした理由が見当たらない人もいる(クリーブランド・クリニック)。また、カンジダ(第15章)や性感染症、閉経、せっけんへのかぶれ、子宮内膜症など、ほかの理由で入り口が痛むこともある(NHS)。だから、最初の一歩は、自己判断で練習を始めるより、婦人科で一度みてもらうことなんだ。
医療の場で使われている方法
NHSは、治療の中心を2つにまとめている。挿入への気持ちに向き合うことと、少しずつ慣らしていく練習だ。具体的には次のようなものがある。
- 性の悩みを扱う、話し合いの療法(心理・性の療法)
- マインドフルネス、呼吸、やさしく触れる練習で、腟の筋肉をゆるめることを覚える方法
- 締めてはゆるめる、骨盤底筋の体操
- 大きさの違う、タンポンのような形の器具(ダイレーター)で、少しずつ慣れていく方法
はじめは専門の療法士の指導のもとで行い、そのあと自宅で練習を続けるのがふつうだとされている(NHS)。クリーブランド・クリニックは、骨盤底の理学療法、話し合いの療法、ダイレーターを使う療法を挙げ、よくなるまで数週間から数か月かかることがあると書いている。
ダイレーターを使う理由について、女性医療クリニックLUNAの医師は、体を広げることよりも「この太さなら入るんだ」「入れても痛くないんだ」と心で受けとめていくことが大切だと説明している。指や細いダイレーターも難しい人には、まず鏡で入り口のまわりを見たり、体のつくりを知ったりするところから始めるそうだ(鏡での観察は第10章)。
研究も見てみよう。腟けいれんの治療についての研究をまとめた分析(メタ分析)では、43件の観察研究(1,660人)を合わせると、治療を受けた人の約79%が、挿入をともなう性行為ができるようになっていた。どの治療法がとくに優れている、という差は見られなかった(Maseroli ら, 2018)。
ただし、この分析の多くは比べるためのグループ(対照グループ)がない研究なんだ。治療そのものの効果なのか、それ以外の理由なのかは切り分けられない。著者たちも「結果の解釈には大きな慎重さが必要」と書いている。「多くの人が前に進めている」という希望として受け取ってね。
かたく閉じた扉は、力いっぱい押すほど閉まってしまう。息をゆっくり吐いて、扉のほうから開いてくれるのを待つんだ。
「ゆるめる」練習の手順
ここでは、医療の場で紹介されている「呼吸」「ゆるめる」「段階を追って慣らす」という考え方を、ひとりで試しやすい形にした例を紹介するね。婦人科でほかの病気がないと分かってから、痛みのない範囲で行おう。
- 段1:息を吐いて、底をゆるめる。仰向けで膝を立てる。おなかをふくらませるように吸い、長く吐きながら、骨盤の底がふわっと下がる感じを探す。分かりにくければ、尿をがまんするように一度きゅっと締めてから、力をすっと抜く。締めたあとに力を抜くと、腟もゆるみやすいと説明されている(ヨミドクター)。締める練習は第3章、ここでは「抜く」ほうを覚えるのが目的だ
- 段2:入り口の外に手を当てる。手のひらで外側をそっとおおい、呼吸を5回。触れても大丈夫、という感覚を体に覚えてもらう
- 段3:指先を入り口に置く。爪を短く丸め、潤滑剤をつけた指先を入り口に当てて、入れずに呼吸を3回。吐くたびに、骨盤の底をゆるめる
- 段4:指先を少しだけ進める。爪の先くらいまで、吐く息に合わせてゆっくり。止めて呼吸し、そっと抜く。慣れたら、第1関節、第2関節と、日を分けて少しずつ
- 段5:細い器具は、医療者と相談して。タンポンやダイレーターに進むときは、太さの選び方や進め方を、婦人科や専門の療法士に教わろう
大切な約束がある。痛みが出たら、その日はそこでやめて、次は1つ前の段から始めよう。大川さんは、入り口に触れただけで「痛い」と思った感覚が、落ち着いてみると「痛いのとは違う、違和感だ」と気づくことがある、と書いている。こうして「痛み」と「慣れない感じ」を見分けられるようになるのも練習のうちだ。ただ、はっきりした痛みをがまんして進むのは逆効果になりかねない。同じ段に何日いてもいいんだよ。
受診の目安と、相談のしかた
次のようなときは、婦人科に相談しよう。
- 指やタンポン、診察の器具が入らない、入れるたびに痛む
- 以前は平気だったのに、入りにくさや痛みが出てきた
- 練習を続けても痛みが減らない、こわさが強くて始められない
相談先には、婦人科のほか、性機能の悩みを扱う外来もある(第6章)。治療の柱の1つに骨盤底の理学療法が挙げられているから(クリーブランド・クリニック)、受診先で、骨盤の底をゆるめる指導を受けられるかたずねてみるのもいい。
診察がこわいときは、それを先に伝えていい。NHSは、女性の医師を希望できること、信頼できる人に付きそってもらえること、診察の前に楽に受ける方法を話し合えることを挙げている。クリーブランド・クリニックは、診察の流れを先に話し合う、鏡で様子を見る、医療者の手に自分の手を重ねる、といった工夫を紹介しているよ。望まない性的な経験がこわさに関わっているときは、第6章にある「📞 #8891」の窓口にも、そっと頼ってほしい。
入るかどうかで、あなたの価値は決まらない。指先1つぶんの勇気を、ゆっくり積み重ねていけばいいんだ。
修行のお題 この1週間、寝る前に3分だけ「段1」をやってみよう。仰向けで膝を立て、長く吐きながら骨盤の底をゆるめる。指はまだ使わなくていい。7日後に「ゆるむ感じが分かったか」を1行メモしよう。
参考にした資料
- Vaginismus(NHS)
- Vaginismus: Causes, Symptoms, Diagnosis & Treatment(Cleveland Clinic)
- Maseroli E, Scavello I, Rastrelli G, ほか (2018). Outcome of medical and psychosexual interventions for vaginismus: a systematic review and meta-analysis. Journal of Sexual Medicine
- 大川玲子(2019)夫と「頑張る」〜挿入障害治療の基本〜(ヨミドクター)
- 村田佳菜子(2022)誰にも言えない性の悩み…挿入障害の治療法を教えて!(女性医療クリニックLUNA)