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第11章 心のアクセルとブレーキ ― 気持ちが乗らない日の練習

⏱ 読む時間の目安:約6分

同じように触れているのに、すっと高まる日もあれば、まったく気持ちが乗らない日もある。それは体が気まぐれなのではなく、心の中で「進め」と「止まれ」の両方が動いているからなんだ。この章では、その2つをていねいに見ていく練習をしよう。

興奮は「アクセル」と「ブレーキ」の兼ね合い

アメリカのキンゼイ研究所の研究者たちは、1990年代の終わりに、性的な興奮をこう考えるしくみを示した。興奮を高めるはたらき(アクセル)と、興奮を止めるはたらき(ブレーキ)の兼ね合いで、反応が決まる、という考え方だ。これは「二重制御モデル」と呼ばれている(キンゼイ研究所)。

研究所の解説では、この2つはある程度べつべつに動いていて、どれくらい効きやすいかは人によって違うとされている。車にアクセルとブレーキの両方があるように、誰でもその場面ごとに、どちらかを、あるいは両方を、違う強さで踏んでいるんだ。

ここで大事なのは、ブレーキは「悪者」ではないということ。研究所は、ブレーキには、危ないときや脅かされているときに反応をおさえて、身を守る役目があると説明している。このモデルをまとめた論文でも、ふつうの範囲のブレーキの効きやすさは、うまく生きるために役立っているという見方が示されている(Bancroft ら, 2009)。

女性たちが挙げたアクセルとブレーキ

女性の場合、何がアクセルやブレーキになるのだろう。18〜84歳の女性80人が、9つの小さなグループに分かれて話し合った研究がある(Graham ら, 2004)。高めるもの・止めるものとして、次のような話題がくり返し出てきた。

この研究では、もう1つおもしろいことが分かった。「したい気持ち(性欲)」が先に来ることもあれば、体が高まってから、あとで気持ちがついてくることもある、と話した人がいたんだ。2つをはっきり分けていない人も多かった。

この話し合いをもとに、研究者たちは女性のアクセルとブレーキを測る質問票を作った。655人の女性で確かめたところ、答えは大きく「アクセル」と「ブレーキ」の2つのまとまりに分かれた(Graham ら, 2006)。

高まりは「アクセル」と「ブレーキ」 アクセル(高める) 安心できる場所 心地よい触れ方 好きな空想や記憶 時間のゆとり ブレーキ(止める) 人の気配や物音 体型への気がかり 届くかどうかの不安 疲れやストレス ブレーキを1つ外すのも近道
アクセルとブレーキの例。何がどちらに入るかは人によって違う。二重制御モデル(Bancroft ら, 2009)と、女性たちが挙げた話題(Graham ら, 2004)をもとに作成。

乗らない日は、ブレーキが効いているだけかもしれない

540人の女性を対象にした研究では、性の悩みともっとも強く結びついていたのは、ブレーキのほうの項目だった(Sanders ら, 2008)。とくに目立ったのは2つ。「条件がぴったりそろわないと高まりにくい、ちょっとしたことで冷めてしまう」という傾向と、「うまく反応できるかという心配が、高まりをさまたげる」という傾向だ。一方、アクセルが弱いことと悩みとのつながりは、ほとんど見られなかった。

つまり、気持ちが乗らない日は「アクセルが足りない」のではなく、「ブレーキが踏まれている」だけのこともある、と考えられるんだ。そうだとすれば、もっと強い刺激を足すより、ブレーキを1つ外すほうが近道になるかもしれない。

この研究は、悩みを相談しに来た人ではない女性への質問票で、関係を見たものなんだ。ブレーキが強いから悩みが生まれるのか、悩みがあるからブレーキが強くなるのか、という順番までは分からない。対象もアメリカの女性だ。「そういう見方もできる」くらいに受け止めてね。

ブレーキは、あなたを守ろうとしてくれている見張り番なんだ。叱って黙らせるより、「もう大丈夫だよ」と1つずつ声をかけてあげよう。

自分のアクセルとブレーキを書き出す

紙かスマホのメモを、左右2つに分けよう。左に「アクセル」、右に「ブレーキ」と書く。そして、思いつくものを短い言葉で並べていくんだ。迷ったら、次の見出しを手がかりにしてみよう。

正解はないよ。ある人のアクセルが、別の人にはブレーキになることもある。書き出すだけでも、「今日はこれが効いていたのか」と気づきやすくなるんだ。体調や季節、暮らしの変化で中身が入れ替わることもあるから、1〜2週間ごとに見直してみよう。

アクセルの側も、同じように1つずつ足していける。好きな香り、肌ざわりのよい布、心地よかった記憶を思い出すことなど、何が効くかは人それぞれだ。ただ、ブレーキが強く踏まれている日は、アクセルを足してもなかなか進まない。だからこの章では、先にブレーキのほうを見ていくよ。

ブレーキを1つずつ外す工夫

全部を一度に片づけなくていい。今日はこれ、と1つだけ選ぼう。

気持ちが乗らない日の過ごし方

先ほどの研究で、気持ちがあとからついてくる人もいると分かったね。だから、乗らない日も、ブレーキを1つ外したうえで、太ももや下腹をゆっくりなでるところから5分だけ試してみるのもいい。それでも乗らなければ、そこでやめていいんだ。やめるのも立派な選択だよ。

欲求の波そのものについては第8章で話すね。気持ちが乗らない日が長く続いてつらいときは、第6章の相談先を見てほしい。望まない性的な経験を思い出して体がこわばるときは、ひとりで抱えずに、第6章にある「📞 #8891」の窓口を頼ってね。

アクセルを踏みこむ日ばかりが修行ではない。ブレーキの位置を知っている人ほど、自分の体をやさしく運転できるんだ。

修行のお題 アクセルとブレーキを3つずつ書き出そう。次の1回は、ブレーキの中から1つだけ選んで、それを外す工夫をしてから始めてみてね。終わったら「外したブレーキ」と「感じの違い」を1行メモしよう。

参考にした資料

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