「オナ禁」は体にいいのか ― 研究で分かっていること・分かっていないこと
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「オナ禁(オナニーをしばらくやめること)で集中力が上がる」「自信がつく」「肌がきれいになる」。インターネットでは、こうした体験談をよく見かけます。海外には、90日間やめることをすすめる大きな集まりもあります。けれど、体にとって本当にいいことなのでしょうか。このコラムでは、ホルモン・前立腺・精子の研究を順に確かめ、分かっていることと、確かめられていないことを分けて書きます。試すかどうかは、それを読んでから決めてください。
ホルモンの研究:テストステロンは上がる?
オナ禁の話でよく出てくるのが、男性ホルモンのテストステロンです。
- 中国の28人の研究:射精のあと、毎日血液のテストステロンを測りました。2〜5日目はほとんど変わらず、7日目にだけ、はっきりした山(はじめの145.7%)が見られました。山のあとも続けてやめた期間には、決まった変化は見られなかったとしています(Jiang ら, 2003)
- ドイツの10人の研究:3週間の禁欲のあと、ふだんのテストステロンが禁欲前より高めでした。一方で、オーガズムの時のホルモンや血圧・脈の反応は、禁欲の前後で変わりませんでした(Exton ら, 2001)
どちらも人数がとても少ない研究です。そして、この程度のホルモンの変化が、集中力や自信、見た目の変化につながると確かめた研究は見つかりませんでした。「7日目に山がある」ことと、「長くやめるほど体によい」ことは、別の話です。
前立腺の研究:出す回数が多い人ほど…
アメリカの医療職の男性31,925人を18年間追いかけた研究では、月に21回以上射精していた人は、月4〜7回の人に比べて、のちに前立腺がんと診断される割合が低めでした(20代の頃の回数で0.81倍、40代の頃の回数で0.78倍)。差は主に、進行の遅いタイプのがんで見られました(Rider ら, 2016)。
これは、生活をたずねて追いかけた「観察の研究」なので、射精ががんを防ぐとまでは言えません。ただ少なくとも、「長くためるほど前立腺に良い」という裏付けにはなっていません。
精子の検査では「2〜7日」
世界保健機関(WHO)の精液検査の手引き(2021年)では、検査の前に射精を控える期間を2〜7日としています。手引きには、精子は精巣の上にある精巣上体(せいそうじょうたい)にたまり、いっぱいになると尿道へあふれて、尿と一緒に流れ出ていくとも書かれています。体の中で精子が無限にたまっていくわけではなく、使われなかった分は、体が自然に外へ出していくのです。
オナ禁したくなる理由:研究が示すもの
ドイツの研究者は、インターネットで1,063人に調査をしました。64.2%が、少なくとも一度はオナ禁を試したことがあると答えています。「やめたい」という気持ちの強さは、実際のオーガズムの回数とは関係が見られず、「オナニーは体に悪い」と考える気持ちや、「人づきあいに影響する」と考える気持ちと強く結びついていました(Zimmer & Imhoff, 2020)。
つまり、オナ禁をしたくなる理由は、回数が多すぎることより、「悪いことだ」という思い込みから来ている場合が多いのかもしれません。オナニーを「損」とみなす考え方がどこから来たのかは、AI時代の一人時間論でくわしくたどっています。
ネットの主張と、研究の今
よく見かける主張を、ここまでの研究で確かめられた度合いで並べると、下の図のようになります。とくに、集中力・自信・肌といった「生活が変わる」主張ほど、体験談しか見つかりませんでした。
それでも試してみたい人へ
やめてみること自体が体に害になる、という研究もありません。気分転換や、自分の習慣を見直す「実験」として試すのは自由です。その時は、次の3つを意識すると、つらくなりにくいでしょう。
- 期間を短く決める:「1週間」など、終わりを決めて始める
- 途中でやめても責めない:がまんできなかった自分を「負け」とみなすと、かえって罪悪感がふくらみます
- 変化を記録する:気分・眠り・集中を記録すると、思い込みではなく、自分の体の答えが見えてきます
反対に、「やめたいのに何度やってもやめられない」「生活や仕事が後回しになっている」と感じる時は、がまん比べより相談が近道です。目安と相談先はアダルト作品との距離の取り方にまとめています。
ここで紹介した研究は、男性を対象にしたもので、人数の少ないものも含みます。オナ禁で体調がよくなる、または悪くなる、とは約束できません。射精の時の痛みや、性器の腫れ・しこりなど、いつもと違う症状がある時は、回数の工夫ではなく泌尿器科で相談してください。
修行のお題 オナ禁を試すかどうか決める前に、まず1週間、回数とその日の気分・眠り・集中を、記録アプリ「修行帳」に書いてみましょう。数字で見ると、自分にとって「ちょうどよい間隔」が見えてきます。
参考にした資料
- Jiang M ら(2003)A research on the relationship between ejaculation and serum testosterone level in men. Journal of Zhejiang University Science 4(2)
- Exton MS ら(2001)Endocrine response to masturbation-induced orgasm in healthy men following a 3-week sexual abstinence. World Journal of Urology 19(5)
- Rider JR ら(2016)Ejaculation Frequency and Risk of Prostate Cancer: Updated Results with an Additional Decade of Follow-up. European Urology
- World Health Organization(2021)WHO laboratory manual for the examination and processing of human semen, 6th edition
- Zimmer F, Imhoff R(2020)Abstinence from Masturbation and Hypersexuality. Archives of Sexual Behavior 49