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第1章 からだのしくみを知る ― 勃起・射精・オーガズム

⏱ 読む時間の目安:約6分

ようこそ、よく来てくださいましたね。ここは、あなたが自分に合ったやり方を少しずつ見つけていくための道場なんですよ。まずは入門として、からだの中で何が起きているのかを一緒にのぞいてみましょう。しくみが分かると、あせりがすっと軽くなりますから。

勃起は「血の流れ」と「リラックスの神経」が主役

性的な刺激を受けたり、想像したりすると、脳から合図が出ます。合図は背中を通る神経の太い束(脊髄)を通って、陰茎に届きます。すると陰茎の血管で、一酸化窒素という物質が出ます。この物質が、血管の壁の筋肉をゆるめます。広がった血管から、陰茎の中にあるスポンジのような部分(海綿体)へ、血液がたくさん流れ込みます。たまった血液に押されて硬くなる。これが勃起のしくみです。

このとき主に働くのは、からだを休ませる神経(副交感神経)です。つまり、勃起は「落ち着いている」ことと相性がよいんですよ。緊張や不安が強いと硬さが続かないことがあるのは、このためなんです。なお、勃起には2通りあります。頭の中の想像から起きるものと、直接ふれられた刺激に反応して起きるものです。このふたつでは、使われる神経の道すじが少し違うことも分かっています。

男性器の断面(輪切り)かたくなる(勃起する)のは、スポンジのような部分に血がたまるから 血をためるスポンジ(陰茎海綿体) 血をためるスポンジ(陰茎海綿体) 通り道をつつむ部分(尿道海綿体) おしっこと精液の通り道(尿道) 外側の皮ふ(皮膚)
ふだんはやわらかく、興奮するとスポンジのような部分(陰茎海綿体)に血がたまって、かたくなります。医療の資料をもとに、かんたんにして描いた図です。
気持ちの高まりの流れよく知られた4つの段階。流れ方は人それぞれで、毎回同じとは限りません 時間 → 高まり ↑ わくわくし始める(興奮期) 高まりが続く(平坦期) いちばん高いところ(オーガズム) おだやかにもどる(消退期)
1960年代の研究(Masters と Johnson)で知られた4つの段階を、かんたんにした図です。気持ちの高まりから始まらない流れもあるという考え(Basson, 2000)もあり、届かなくても失敗ではありません。
前立腺はどこにある?ぼうこうのすぐ下で、おしっこの通り道をかこんでいます おしっこをためる袋(ぼうこう) 前立腺(前立腺) おしっこと精液の通り道(尿道) おなか側の骨(恥骨) うんちの通り道(直腸)
男性の骨盤を横から見た図です。前立腺は、おしりの側(直腸)からも近くにあります。医療の資料をもとに、かんたんにして描いた図です。

射精は「高まりの神経」が受け持つ、段階のある反応

一方、射精を受け持つのは、からだを活動させる神経(交感神経)です。射精はひとつの動作に見えます。でも実は、いくつかの段階に分かれています。

勃起は「ゆるむ神経」、射精は「高まる神経」。正反対の働きをする2つの神経が、うまくバトンを渡し合っているわけですね。だから、リラックスしすぎても、緊張しすぎても、流れが途切れることがあるんです。

オーガズムは「脳で感じる快感の頂点」

オーガズムは、脳で感じる強い快感のことです。ふつうは射精と同時に起こります。このとき、骨盤まわりの筋肉が、自分の意思とは関係なくリズムよく縮みます。射精のあとの感じには、快感にかかわる脳の中の物質(ドーパミンなど)が関係している、と説明されています。ここで大切なことがあります。射精(精液が出るという体の出来事)とオーガズム(脳の感覚)は、ふだんは重なっています。でも本来は、別々のしくみなのです。

快感や時間には、大きな個人差がある

「自分は早いのでは」「遅いのでは」と気にする方は多いです。でも、ここにはとても大きな幅があります。5か国・500組のカップルが、挿入から射精までの時間をストップウォッチで記録した調査があります。真ん中の値は約5.4分でした。ただ、短い人は1分に満たず、長い人は40分をこえていました。年齢が上がるほど短くなる傾向や、国による差も見られました(Waldinger ら, 2005)。この調査は、安定した関係のある男女のカップルが対象です。ひとりでの自慰の時間を測ったものではありません。それでも「ふつう」の幅がとても広いことは、よく分かります。

感じやすい場所や好む強さ、高まるまでの道のりも、人によって違います。正解はひとつではないんですよ。

健康面について分かっていること・まだ分からないこと

自慰は多くの人にとって自然なことです。医療機関の解説でも、ストレスをやわらげたり、気持ちを落ち着けたりする面があると紹介されています。「目が悪くなる」「子どもができなくなる(不妊)」といった昔からの言い伝えには、医学的な根拠は見つかっていません。

よく話題になるのが、前立腺がんとの関係です。米国の医療の仕事をしている男性約3万2千人を、約18年追いかけた研究があります。ひと月に21回以上射精していた人は、4〜7回の人より、前立腺がんと診断される割合が約2割低いという結果でした(Rider ら, 2016)。ただし、差がはっきり出たのは、主にゆっくり進むタイプのがんです。たちの悪いタイプ(悪性度の高いがん)では、関係は見られていません。また、これは実際の様子を追いかけて「関係がある」と分かった結果です。射精そのものが予防になると証明したものではありません。ほかの研究も合わせてみると、関係があるとするものと、ないとするものがあります。専門家の間でも、評価は分かれています。

回数に「正しい数」はありません。多くても少なくても、痛みや毎日の生活への困りごとがなければ、気にしすぎなくて大丈夫です。ただし、やめたくてもやめられない、仕事や人間関係に影響が出ている、と感じるときは、専門家に相談してみてくださいね(第6章)。

からだは、ゆるむ神経と高まる神経の二人三脚。どちらかだけでは進めないんです。だからこそ、あせらずに、あなたのからだの声を聞いてあげてくださいね。

修行のお題 次の1回は、始める前と終わったあとに、深呼吸を3回して「いまの緊張度」を0〜10で心の中につけてみましょう。緊張が低い日と高い日で、硬さや高まり方がどう違うか、メモに1行だけ残してみてくださいね。

参考にした資料

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