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昆虫とクモの驚きの性 ― 共食い、贈り物、光のうそ

⏱ 読む時間の目安:約7分

虫やクモの子孫の残し方(繁殖)を調べていくと、ドラマの脚本家でも思いつかないような話が次々に出てきます。交尾のあとにオスを食べてしまうメス。手みやげの出来で相手を選ぶメス。ライバルの精子をかき出すオス。恋の合図をまねて、ほかの種のオスをおびき寄せるハンター。今回は、そうした話のうち研究で確かめられているものを選んで、分かっていることと、まだ分からないことをいっしょに紹介します。

カマキリの共食いは、どのくらい起きているのか

「カマキリのメスは交尾のあとオスを食べる」という話は有名ですが、毎回起きるわけではないです。カマキリの共食いをあつかった論文によると、共食いをする種でも、野外で起きるのは出会いのおよそ13〜28%とされています。ある野外の集団では、おとなのメスが食べた獲物の63%がオスだった、という推定も紹介されています。場所によって、数字が大きく揺れるようです(Brown & Barry, 2016 が引用する野外調査)。共食いの研究の多くは、飼育ケースの中で行われてきました。そのため、野外での本当の姿は、まだ分かりきっていないです。

では、食べられたオスは損をしただけなのでしょうか。ブラウンとバリーは、カマキリの一種(Tenodera sinensis)のオスとメスに、別々の目印をつけた餌を与えてから交尾させました。そして、オスの体の成分がどこへ行くかを追いかけました。すると、オスを食べたメスの卵には、食べなかったメスの卵より多く、オスから来た体の材料(アミノ酸)が入っていました。その後に作った卵の数も増えていました。食べられなかった場合でも、オスは精液を通して、目印の約25%をメスに渡していました(Brown & Barry, 2016)。ただし、これは人が飼っている虫での実験(飼育下の実験)で、共食いさせるかどうかは研究者が決めています。食べられたオスが、結果として自分の子を多く残せたかどうかまでは、この研究だけでは言い切れないです。

自分から差し出すセアカゴケグモのオス

オーストラリア原産のセアカゴケグモのオスは、交尾の最中に体をひねって、自分のおなかをメスの口もとに差し出します。アンドレードは、次のことを示しました。食べられたオスのほうが交尾が長く続き、より多くの卵を、自分の精子と結びつけていた(受精させていた)こと。さらに、オスを食べたメスは、次に来たオスを断りやすくなること(Andrade, 1996)。命と引きかえに、父親になれる分を増やしている、という見方です。ただ、この研究が示したのは、父親になれる割合の差です。この行動がどんな道すじで進化してきたかまでを、直接たどったものではないです。

それにしても、なぜそこまでするのでしょうか。同じ研究者の野外調査では、オスの80%以上が、メスにたどり着く前に死んでいました。共食いがなかったとしても、一生のうちの交尾のチャンスは、1回にも満たないと見積もられました。しかも、食べられるのは交尾の65%で、すべてではないです(Andrade, 2003)。「次のチャンスはほとんど来ない」という条件がそろった種だからこそ成り立つ作戦(戦略)で、クモ全般に当てはまる話とは違います。死ぬ割合(死亡率)は、野外での観察と、クモを放して追う実験(放流実験)からの推定です。年や場所が変われば、数字も変わりうる点は押さえておきたいところです。

贈り物で選ばれるガガンボモドキ

ガガンボモドキの仲間のオスは、捕まえた虫をメスに差し出します。メスはそれを食べながら交尾します。ソーンヒルは、北米の Bittacus apicalis を、野外と実験室で調べました。そして、メスが贈り物の虫を見て相手を選ぶことを報告しました。一定以上の大きさ(約19平方ミリ以上)のおいしい獲物を持ってくるオスを選んだメスほど、多くの卵を残せることも分かりました(Thornhill, 1976)。贈り物は気持ちの表れだけでなく、メスにとって本当の栄養になっているということです。ただし、1970年代の研究で、調べたのは一つの種だけです。ほかの虫の「贈り物」まで同じように説明できるとは、限らないです。

ライバルの精子をかき出すトンボ

メスが何匹ものオスと交尾する種では、交尾のあとも競争が続きます。「どのオスの精子が卵にたどり着くか」という競争です。これを、オスどうしの精子の競い合い(精子競争)と呼びます。ワーグは、北米にすむカワトンボの仲間(Calopteryx maculata)を調べました。そして、オスの交尾に使う器官(交尾器)が、自分の精子を渡すだけでなく、メスの体の中にためられた前のオスの精子をかき出す働きも持つことを示しました。交尾器にこうした「お掃除」の役割があると報告されたのは、動物全体でも初めてのことでした(Waage, 1979)。とはいえ、調べたのは一つの種です。ほかのトンボにどこまで当てはまるかは、種ごとに確かめる必要があります。

光でうそをつくホタル

北米のホタルの多くは、オスが種ごとに決まったリズムで光り、メスが決まった間をおいて光り返すことで出会います。ロイドは、Photuris という仲間(属)のホタルのメスの行動を、野外で確かめました。別の仲間 Photinus のメスの返事の光をまねて、オスを呼び寄せ、食べてしまうのです。ある晩に観察した1匹は、30分ほどのあいだに、通りかかったオス12匹に返事をしました。そして最後に、近づいてきた1匹を捕まえていました(Lloyd, 1965)。恋の合図が、そのまま罠になっているわけです。ただし、この報告は数回の野外観察の記録です。こうした狩りがどのくらいの回数で起きているかまでは、分からないです。

たくさんのオスと交尾する女王バチ

ミツバチの女王は、巣を出て空中でたくさんのオスと交尾します。受け取った精子を体にためて、その後長いあいだ卵を産み続けます。なぜたくさんのオスと交尾するのでしょうか。マティラとシーリーは、それを調べるため、二つの群れを比べました。15匹のオスの精子を、人の手で入れた(人工授精した)女王の群れと、1匹のオスの精子だけを入れた女王の群れです。すると、いろいろな遺伝子をもつ働きバチがいる群れ(遺伝的に多様な群れ)のほうが、新しい巣づくりが速かったのです。餌集めや蓄え、数の増え方でも上回り、オスバチを育てる数や冬越しの成績もよかったといいます(Mattila & Seeley, 2007)。ただし、比べたのは「15匹」と「1匹」という、かけ離れた二つの条件です。自然の女王が、なぜその回数に落ち着くのかまでは、この実験では決められないです。一方のオスバチは、巣の仕事をほとんどしません。交尾のチャンスを求めて飛ぶのが一生の役目で、交尾したオスはそこで命を終えることが知られています。

「自然だから正しい」とは言えない

こうした話を聞くと、「オスは身をささげるものだ」「相手を何度も替えるのが自然だ」と、人の生き方に当てはめたくなるかもしれません。けれど、「自然界でそうなっている」から「だから正しい」を導くのは、「自然だから正しい」と思いこむ落とし穴(自然主義の誤謬)です。そもそも同じクモでも、食べられないオスがいます。同じカマキリでも、共食いが起きない出会いのほうが多いです。虫たちのやり方は、それぞれの種が置かれた条件の中で形づくられてきたものです。人の道徳の手本として用意されたものとは違います。

ヒトへのヒント 虫の世界を見わたすと、相手とのかかわり方にはおどろくほど多くの形があって、どれが一番とは決まっていないことが分かります。人の性も、誰かと分かち合う時間もあれば、一人で自分をいたわる時間もあります。そのどちらにも、決まった正解はないのかもしれません。珍しい虫の話を楽しむくらいの気持ちで、自分に合ったペースを探してみてはいかがでしょうか。

参考にした資料

📜 オナニー道の心得📓 記録アプリ「修行帳」