第14章 ひとりの練習をふたりへ ― 伝え方と「オーガズムの差」
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ひとりの修行で見つけた心地よさは、あなただけの宝物だ。もし大切な相手と分かち合いたくなったら、その宝物をどう手渡すかが次の修行になる。この章では、研究で分かっている「差」と、伝え方の工夫を話そう。場面の描写はせず、考え方と言葉の例だけにとどめるね。
「オーガズムの差」という言葉
アメリカの大人5万2,588人の調査がある。親密な時間に「たいてい、またはいつも」オーガズムに届くと答えた人は、異性愛の男性で95%、異性愛の女性で65%だった。ゲイの男性は89%、両性愛の男性は88%、レズビアンの女性は86%、両性愛の女性は66%だった(Frederick ら, 2018)。
このように、異性とのふれあいで、女性が届く割合が男性より低いことは、「オーガズムの差(オーガズム・ギャップ)」と呼ばれている。研究をまとめた総説では、ここ数年の研究でもこの差は続いていること、決まった相手との関係より、その場かぎりの関係のほうが差が大きいことが紹介されている(Mahar ら, 2020)。
差は「体のせい」ではないかもしれない
グラフを見ると、レズビアンの女性は86%で、異性愛の女性よりずっと高いね。同じ女性の体でも、ふれあいの相手や中身によって、数字が大きく変わりうるということだ。
総説の著者たちは、差の理由として次のようなことを挙げている。外側(クリトリス)への刺激が中心のふれあいより、挿入を「本番」と考える文化の思いこみ。女性が「自分も心地よくなっていい」と思いにくいこと。男らしさについての思いこみ。ふれあいの最中に、女性の気が散りやすいこと(Mahar ら, 2020)。
体のしくみの面からも、うなずける話なんだ。アメリカの女性1,055人の調査では、挿入だけで届くと答えた人は18.4%。36.6%は、挿入のときにクリトリスへの刺激が必要だと答え、さらに36%は、必要ではないけれど、あるほうがよいと答えていた(Herbenick ら, 2018)。
総説では、外側への刺激を十分に含んだふれあいでは、女性92%、男性96%と、差がほとんどなくなったという研究も紹介されている。1つの研究だけれど、差は「どうしようもないもの」ではない、と考える手がかりになるね。
ひとりで見つけた好みを、ふたりへ
同じ総説は、届きにくさに悩む女性にもっとも根拠のある方法として、まず自慰でどんな刺激が合うかを見つけ、それをパートナーとの時間に移していくことを挙げている(Mahar ら, 2020)。ここまでの修行は、その準備でもあったんだ。
先ほどの5万人の調査では、よく届く女性ほど、してほしいことを相手に伝えていた。相手のよかったところをほめることも多かった(Frederick ら, 2018)。伝え方の例を挙げるね。
- 前もって、落ち着いた場所で話す:「最近、自分の体のことを調べていてね。こういうのが好きみたい」。ふれあいの最中より、服を着てお茶でも飲みながらのほうが言いやすい人も多い
- 短い言葉で、その場で伝える:「もう少しゆっくり」「そのくらいの強さが好き」「そこ、いい感じ」。だめ出しより「こうしてほしい」の形にすると、相手も受け取りやすい
- 手を重ねて伝える:相手の手に自分の手を重ねて、強さや速さを一緒に動かして見せる。言葉にしにくい好みも伝わりやすい
- 自分で触れる、道具を使う:自分の手や、ひとりで慣れた道具を一緒に使うのも、自然な選択肢だ(第12章)
- よかったことを伝える:終わったあとに「あれがうれしかった」と1つ伝える
第3章でつけたメモが、ここで役に立つよ。「圧・リズム・範囲」の好みが分かっていれば、言葉にしやすいんだ。
伝えたら、相手の好みや、されるとうれしいことも聞いてみよう。一方通行の注文ではなく、お互いの地図を見せ合うつもりで話すと、気まずさがやわらぐ。最初からうまく伝わらなくても大丈夫。1回で伝わらないのは、どちらかが悪いからではなく、言葉にするのに慣れていないだけなんだ。何度か重ねるうちに、ふたりだけの言い方が育っていくよ。
相手は、あなたの心の中を読めない。だからこそ、伝えることは、わがままではなく思いやりなんだ。
挿入だけにこだわらない
総説では、差を縮める考え方として、挿入を中心にした決まった流れを見直すことが挙げられている。たとえば、外側への刺激で女性が届く時間と、挿入の時間を分けて順番にする。あるいは、挿入と同時に外側への刺激を組み合わせる、という考え方だ(Mahar ら, 2020)。5万人の調査でも、挿入に加えて、深いキスや、手での性器への刺激などがあったとき、女性は届きやすかった(Frederick ら, 2018)。
挿入しないふれあいも、立派なふれあいだ。痛みや入りにくさがあるなら、なおさら無理に挿入を目指さなくていい(第13章)。そして、届くことは義務ではない(第1章)。届かなかった日も、心地よさを分かち合えたなら、それで十分なんだ。
同意は毎回、途中でやめてもいい
内閣府男女共同参画局は、性的な行為への同意について、大切な点を3つ挙げている。「いや」と安心して言える状況であること。1つのことにOKしても、ほかのすべてにOKしたわけではないこと。対等な関係であることだ。相手が配偶者や交際相手であっても、同意は必要だとしている。
前回よかったことも、今日もよいとは限らない。気持ちが変わったら、途中でも「今日はここまで」と言っていい。相手がそう言ったときも、同じように受けとめよう。痛みが出たときは、すぐに手を止めてね。痛みがくり返すときは第6章を、望まない性的な経験がつらさに関わっているときは、第6章にある「📞 #8891」の窓口を頼ってほしい。
ふたりの道は、どちらか一方が先を急ぐ道ではない。歩幅を伝え合いながら並んで歩くことが、この道の極意なんだ。
修行のお題 自分の好みを3つ、「〜が好き」「〜してくれるとうれしい」の形で書き出そう。相手に見せなくていい。声に出して1回読んでみるだけで、いざという時に言葉が出やすくなるよ。
参考にした資料
- Frederick DA, John HKS, Garcia JR, Lloyd EA (2018). Differences in orgasm frequency among gay, lesbian, bisexual, and heterosexual men and women in a U.S. national sample. Archives of Sexual Behavior
- Mahar EA, Mintz LB, Akers BM (2020). Orgasm equality: scientific findings and societal implications. Current Sexual Health Reports
- Herbenick D, Fu TJ, Arter J, Sanders SA, Dodge B (2018). Women's experiences with genital touching, sexual pleasure, and orgasm: results from a U.S. probability sample of women ages 18 to 94. Journal of Sex & Marital Therapy
- 「共同参画」2024年3・4月号 性的同意(内閣府男女共同参画局)